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鬼の話 続き

二回目に見たのは小学生の夏休みの話である。私はその頃マンションに住んでいた。
ある日両親にワープロが欲しいとねだった。
それを聞いた母は思い出したように言った。「そう言えば押入れの中に、タイプライターが眠っているはずだよ」

翌日、家族は買い物にでかけてしまい、一人きりになった私はタイプライターを探すために押入れを開いた。
独特の匂いがして、積まれた本や雑貨で埋もれた押入れをかき分けて、タイプライターを探していると、後ろの棚の隙間から誰かの視線を感じた。
振り返ってみると、棚と壁の隙間からこちらを見ている人がいる。青白い顔で角がある。
いつか見た鬼だ。と思った。
しかしその時は怖いと思わなかった。鬼は何かを伝えようとしていると思えたからである。
そしてじっと見ていて漸く気がついた。その棚と壁の隙間には、人が入るスペースなのどないのである。

急に怖くなって慌てて外に出た。
暫くして落ち着くと、あの鬼はなんだったのか、まだいるのかと興味が湧いて、再び押入れを開いてみた。
果たしてそこにはまだ青鬼の顔があった。顔だけがふわふわと宙を浮いており、こちらをじっとみている。
私は怖くなって布団にもぐりこんだ。

翌日友達と押入れを開いた時、そこには誰もいなかった。


三回目はそれから数年後の小学校六年生の頃の話である。
私には一人部屋が出来た。一人部屋と言っても、物置に使われていた部屋を無理矢理片付けて布団と机を置けるようにしただけの部屋で、正直物置で暮らしていたのと変わらなかった。
ある晩のこと、トイレへ行きたくなって目を覚ました私は、用を足したあと布団の中で眠れずにいた。
豆電球をつけて、ぼんやりと部屋の隅に置かれたゴルフクラブや古いギターや服が入っているダンボールを眺めていると、玄関がガチャリと開く音がした。
私の部屋は玄関の真横で、家の居間へ行くにはかならず私の部屋の前を通らなければならないのである。
こんな時間に何事だろうと思った瞬間、私の枕元に大きな影が映った。
黒い影が質感をもって私の顔の横に立っている。顔を見ると、青い顔の鬼だった。その鬼は顔以外は真っ黒で、色がない。
だが怖くは無かった。むしろ、懐かしい感じがして妙に安心し、私はそのままスーッと眠りに着いたのである。

翌朝、不思議な事に私は巻寿司のきゅうりみたいに布団に巻かれて目が覚めた。
by tominaga103175 | 2006-03-02 23:56 | 怪談

怪談、クトゥルフ神話サークル『アコンカグア』本島としやのブログです。

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