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怪談 意味深なうたた寝

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怪談、クトゥルフ神話サークル『アコンカグア』本島としやのブログです。日々収集した怪談を更新していきます。と思っていたけど最近はけっこうグダグダCDレビューしてる。

奇跡の海

 地下鉄は、地下鉄らしい独特の空気感があって、おもしろい。電車が向かってくるときに起きる風とか、漏水に侵食されたコンクリートとか、薄暗い照明に照らされたベンチで、うとうとしている人とか。閉塞感とか。
 普段、地下鉄ばかり利用しているので、JRのような、外で走る電車に乗っていなかった。
 ゴミは落ちていない。が、塗装の剥げたホームだった。年季を感じる場所だった。擦れた白線に、何十人もの過去に気づいた。地下鉄と違って、外の風が、生の風だった。
 ホームで、電車を待っているとき、ふと空を見上げると、透明なプラスチックで作られた雨よけの先に強烈な光を見た。たとえば、深い洞窟に差し込む太陽光。あるいは、脳髄を貫く電気的な衝動。絶対に無視することのできない、思わず跪きたくなるほど強い存在感。
 驚いて視線をそらす。視線を落とすと、ホームが夕焼けに照らされている。
 太陽の光を見たからか、視界がおかしくなっていて、緑色だったけれど。緑道に似た夕焼けが、誰の気配もないホームに落ちている。壁に貼られた広告すら、異世界めいた場所だ。
 時間の経過を感じなくなった。幾人も自分が存在していた。数え切れないほど複数に分かれた自分自身の居場所が、少しの苦労もなく浮かんだ。瞬間的に、今立っている足元と、擦り切れたコンクリートが自分自身と一体なのだ。コンクリートだけでなく全てのものも同じだった。何も変わりがなかった。ただ、全てのものは無意識に存在しているだけだった。ニュートラルな意味で、この存在に何の意味も与えられていないのだ。
 もう一度、空を見上げると、太陽は雲に隠れて、柔らかな光の玉だった。もちろん、太陽にも何の意味も与えられていなかった。ただそこにあるだけだった。同時に、あれは自分自身ではないが、自分自身の一部なのだと理解した。
 仮に、人間を超越できる何者かがいるとしたら、それは自分自身なのだ。自分以外に自分を越えられるものはない。しかし同時に、自分は人間を超越した何者かに隷属しなければならないと感じる。
「誤解を覚悟で言うならば、自分は神だ。そして神であると同時に神の忠実な下僕だ。部分と全体の境界線は、言葉にすれば極めて複雑で曖昧だが、感じるだけならこれ以上細分化できないほどシンプルだ」

富永はこう語った。

 


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by tominaga103175 | 2010-04-11 23:06 | 雑談